この化粧皿はイランの文化とインドの文化の要素が如何に一つのガンダーラの作品の中に融合されているかの例です。化粧皿の上半分に表されたのは、豊穣多産の神のカップル、ハリティとパンチカです。イランでは豊穣多産の女神はアルドクショと言い、片手に長い棕櫚の葉ともう一つの手に小さな花を持って座す姿が一般的です。アルドクショの台座の左右にライオンがいます。この特徴はこちらのハリティ像にも見られます。しかし、このハリティの頭の左右にいる鼻を高く伸ばした象は、インドの幸福の女神スリ・ラクッシュミの頭の上に水を灌ぐインドのモチーフですし、ハリティの大きなイヤリングもむしろインドの装身具を思わせます。
一方パンチカも、イラン系のクシャーン族のようにブーツを履いていますし、左手に槍を持っていますが、その槍の先端を飾るのはライオンの姿、またおへそが見える大きな裸のお腹はインドの財宝の神クベラ譲りです。左手は破損していますから分かりませんが、クベラのように長いお財布を持っていた可能性があります。彼の頭飾りも豪華なインド風のものです。
初期仏教美術は、仏教を広めるために仏陀の生涯を物語る仏伝図が制作され、礼拝者がお参りする仏塔などを飾っていました。アレキサンダー大王(紀元前356-323年)のバクトリアの征服後西洋の文化の影響を受けたガンダーラ地方ではそれまで仏足石やターバンや王座の座布団などの象徴でしか表されることがなかった仏陀が人物として表されるようになり、仏陀や菩薩の立像と坐像が多く作られるようになりました。一方、ガンダーラの化粧皿に表される題材は、仏教のテーマはないに等しく、むしろガンダーラ美術に影響を与えた異文化からのモチーフ、取り分けギリシャ神話の登場人物や怪獣が多いです。化粧皿と称するものは化粧用具ではなかったと言う説もあります。この化粧皿にかつて金箔が貼られており、その残りがまだ表面に見られます。
化粧皿、ガンダーラ、紀元3世紀、片岩、径:11 cm

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